『ぼく はなせない』    さくまけんじ

 

 ぼく はなせない

 どうやら ショウガイがあるみたい

 だから いままで言葉を使ったことは一度も無い

 

 ぼく はなせない

 お母さんが 「おはよう」といっても

「おはよう」と言えない

 

 ぼくはなせない

 お父さんとお風呂にはいるときも

 すごっく楽しいんだけど

言葉は使えない

 

 ぼく はなせない

 おねえちゃんが お菓子をわけてくれても

「ありがとう」と言えない

 

 ぼく はなせない

 

公園に遊びにいっても

 スーパーに買い物につれていってもらっても

 

 ぼくはただ

 にこにこと笑うだけ

 

 いろいろ考えながら

自分でパンをつかんで食べたとき

「やったー」って喜びたかったけど

「やったー」とは言えない

 

 ぼく はなせない

 

 お父さんとお母さんが僕のことで悩んでいても

 

 

 ときどき ケンカしていても

 ぼく はなせない

 

 はなせないから ときどき

大声を出しちゃう

 

 お母さんが 大丈夫だよ といっても

 お父さんが どうした? とたずねてきても

 お姉ちゃんが よしよし と頭をなでてくれても

 ぼく はなせない

 

 ぼくはただ

 にこにこと笑うだけ

 

 そう

 にこにこと笑うんだ

 そしたら

 みんな喜んでくれる

 

 だから

 ぼく はなさない

 

 みんなの気持ち はなさない

 

 やさしい気持ち はなせない

 お母さんや お父さんや お姉ちゃん

 おばあちゃんや おじいちゃん

 おじさんや おばさん

 いとこのみんな

 

 いつも公園で遊んでくれるお友達

おとうさんの勉強なかま

 

 そんなみんなの

優しい気持ち

 はなせない

 

優しい気持ち

 はなさない

 

 ぼく はなせない

 

 

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